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『 二十三日 3/3 』≪≪    ≫≫『 二十三日 1/3 』   
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 空が明るくなってきた。
 夜勤明けの色部勝長が少しでもリフレッシュしたいと思い、
窓を全開にして歯を磨いていると、
「佐々木先生、橘くんって男の子から」
「おお」
 背後から声がかかって、慌てて口をゆすいだ。
 古めかしい黒電話の受話器を取り上げる。
「どうした、何かあったか」
『朝早くにすみません。昨日の夜、不思議な気配を感じません
でしたか』
 直江は、挨拶もそこそこに問いかけてきた。
「いや、特にはなかったが」
『口で言うのは難しいんですが、胸騒ぎと言うか……何か大きな
事件でもあったのかと』
「取り立てて聞いてはいないな。一応、八海に連絡を取っておこう」
『……ええ、お願いします』
 多少気落ちした声が、受話口の向こうから聞こえてきた。
「どうだ、最近は?」
───……何も変わりはないですよ』
 変わりたくたって変わりようがない、と相変わらず自虐的な
答えが返ってくる。
 下手すると小学生であることを忘れてしまいそうにもなる。
『前にした夢の話、覚えていますか』
「ああ、謙信公が夢枕に立って、景虎の今後はお前に掛かって
いると言ったっていうあれか』
『ええ。あれからもう半年以上が経つというのに、何も状況が
変わらない」
「……直江」
 焦るな、と言ったって聞きやしないだろう。
 が、他に言葉の掛けようが無い。
『もう、10年です』
「わかっている」
 直江がこれほどに焦っているのは、景虎の無事を確かめたい
からなのか。
 それとも。
(自らの贖罪のためか……)
 色部が顎に手をやりながら考えていると、
『昨日空をみていたら───
 何かを喋りかけた直江がは、そのまま口を噤んでしまった。
「なんだ?」
『いえ、いいんです』
「………そうか?」
 訪れた沈黙を何とかするために、
「空を見るのはいいことだ、直江」
 色部は言った。
「景虎も、空を見上げているかもしれないぞ。少なくとも、
同じ空の下にいることには間違いない」
『……色部さん』
 その後も結局、大した話も出来ずに電話を切った。
 自然とため息が漏れる。
(気休めにもならないな)
 直江はいつだって、切羽詰ったような声をしている。
 何とかしてやりたいとは思うが、何とか出来るのはひとりだけ
なのだ。
(いったい、どこで何をやっている?)
 色部は懐かしい面影を、早朝の空に映し出した。
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