「いってらっしゃい」
父親を仕事へと送り出してから、美弥は兄の部屋の扉を叩いた。
「おにーちゃん、いーかげんにしないとまた遅刻だよ!」
キッチンへ戻り、二人分の茶碗を片付けながら時計をみる。
急がないと自分も毎朝待ち合わせている友達に怒られてしまう。
部屋へ戻って鏡の前でもう一度髪型をチェックし、
カバンを手に戻ってくると高耶がテーブルについていた。
「おはよ。ごはんよそう?」
「いや、自分でやるからいい」
まだ寝癖がついたままの高耶は眼をこすっている。
美弥は兄が、どんなに早起きしても父親が出かけた後でないと
部屋から出てこないことを知っていたが、今朝は本当に寝ていたようだ。
新たな友人(?)たちと付き合うようになってから、高耶は変わった。
休みの日も活動的になり、ときどき大人みたいな表情をする。
そのことに気付ける自分も少し成長したのかな、と思う。
「寝不足?」
「ちょっとな。早くしないと遅刻するぞ」
「おにーちゃんなんか完璧遅刻じゃん!先行っちゃうからねっ」
「……いってらっしゃい」
せっかくセットした頭をくしゃっとなでられた。
どんなに大きくなっても、子ども扱いされることが美弥は嬉しかった。
外に出ると早朝の冷え込みが嘘のように日差しがぽかぽかと暖かい。
(いつか、家族3人で朝ごはんを食べられる日が来るのかな)
美弥は笑顔で、元気良く歩き出した。
父親を仕事へと送り出してから、美弥は兄の部屋の扉を叩いた。
「おにーちゃん、いーかげんにしないとまた遅刻だよ!」
キッチンへ戻り、二人分の茶碗を片付けながら時計をみる。
急がないと自分も毎朝待ち合わせている友達に怒られてしまう。
部屋へ戻って鏡の前でもう一度髪型をチェックし、
カバンを手に戻ってくると高耶がテーブルについていた。
「おはよ。ごはんよそう?」
「いや、自分でやるからいい」
まだ寝癖がついたままの高耶は眼をこすっている。
美弥は兄が、どんなに早起きしても父親が出かけた後でないと
部屋から出てこないことを知っていたが、今朝は本当に寝ていたようだ。
新たな友人(?)たちと付き合うようになってから、高耶は変わった。
休みの日も活動的になり、ときどき大人みたいな表情をする。
そのことに気付ける自分も少し成長したのかな、と思う。
「寝不足?」
「ちょっとな。早くしないと遅刻するぞ」
「おにーちゃんなんか完璧遅刻じゃん!先行っちゃうからねっ」
「……いってらっしゃい」
せっかくセットした頭をくしゃっとなでられた。
どんなに大きくなっても、子ども扱いされることが美弥は嬉しかった。
外に出ると早朝の冷え込みが嘘のように日差しがぽかぽかと暖かい。
(いつか、家族3人で朝ごはんを食べられる日が来るのかな)
美弥は笑顔で、元気良く歩き出した。
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1、2、3、4、5...
譲は咀嚼しながら数を数えていた。
子供のころから、とにかくよく噛んで食べるように言われてきた。
そのせいか、なんとなく自分が飲み込むまでの回数を数えてしまう。
父親からはキャッチボールや補助輪なしの自転車の前に、
まず歯磨き(成田家ではブラッシングと呼ぶ)を徹底的に教わった。
月イチの父親の手による歯の検診も、この歳まで欠かしたことがない。
ジュースやスポーツ飲料の類は家の外でしか飲めないし、
もらい物のお菓子なんかを食べてもすぐに歯を磨かされる。
「譲、次のハミガキ教室は再来週だからな」
「ん、わかってる」
成田歯科医院では3ヶ月に一度、定休日の午後を使って
子供向けのハミガキ教室を行っている。
そこは、譲が父親に叩き込まれたブラッシング技術を
惜しみなく披露する場なのだ。
跡取りとして着々と準備が進められているとも思える。
それを譲は嫌だとも思わないし、逆に幸せな境遇だと捉えているが、
これがもし高耶だったら、冗談じゃない、とか怒り出しそうだ。
想像してしまって、クスリと笑いを漏らした。
「どうした」
「ううん、別に」
緩んだ頬を元に戻して、譲は再びカウントを始めた。
1、2、3、4、5...
譲は咀嚼しながら数を数えていた。
子供のころから、とにかくよく噛んで食べるように言われてきた。
そのせいか、なんとなく自分が飲み込むまでの回数を数えてしまう。
父親からはキャッチボールや補助輪なしの自転車の前に、
まず歯磨き(成田家ではブラッシングと呼ぶ)を徹底的に教わった。
月イチの父親の手による歯の検診も、この歳まで欠かしたことがない。
ジュースやスポーツ飲料の類は家の外でしか飲めないし、
もらい物のお菓子なんかを食べてもすぐに歯を磨かされる。
「譲、次のハミガキ教室は再来週だからな」
「ん、わかってる」
成田歯科医院では3ヶ月に一度、定休日の午後を使って
子供向けのハミガキ教室を行っている。
そこは、譲が父親に叩き込まれたブラッシング技術を
惜しみなく披露する場なのだ。
跡取りとして着々と準備が進められているとも思える。
それを譲は嫌だとも思わないし、逆に幸せな境遇だと捉えているが、
これがもし高耶だったら、冗談じゃない、とか怒り出しそうだ。
想像してしまって、クスリと笑いを漏らした。
「どうした」
「ううん、別に」
緩んだ頬を元に戻して、譲は再びカウントを始めた。
1、2、3、4、5...
沙織は眼をひん剥いた。
朝から食卓にロールキャベツがのっている。
昨晩はジンギスカンだったから、残り物ではない。
「何これっ!」
「”サルマーレ”よ」
「……そう。今日はどこなの」
「えーっと”ルーマニア”だそうよ」
なにやら紙を見ながら母が答える。
一口食べてみた。かなり美味しい。だが、朝から食べるのはどうだろう。
最近、沙織の母親は世界各国の料理を作るのに凝っている。
突拍子もない性格なのだ。
一時期お弁当に、チジミやらピザやらを持たされて閉口した。
なんとか頼み込んで、お弁当だけは普段どおりにしてもらっているが。
「お母さん、たまにはふつーに目玉焼きがいいな」
「あらそう、じゃあ夕飯は卵を使ったものにしようかな」
「いや、そうじゃなくて」
確かチュニジアの方に……、と
覚えたてのパソコンでプリントアウトした紙をめくり始める。
沙織はとほほ、と頭をたれた。
朝から食卓にロールキャベツがのっている。
昨晩はジンギスカンだったから、残り物ではない。
「何これっ!」
「”サルマーレ”よ」
「……そう。今日はどこなの」
「えーっと”ルーマニア”だそうよ」
なにやら紙を見ながら母が答える。
一口食べてみた。かなり美味しい。だが、朝から食べるのはどうだろう。
最近、沙織の母親は世界各国の料理を作るのに凝っている。
突拍子もない性格なのだ。
一時期お弁当に、チジミやらピザやらを持たされて閉口した。
なんとか頼み込んで、お弁当だけは普段どおりにしてもらっているが。
「お母さん、たまにはふつーに目玉焼きがいいな」
「あらそう、じゃあ夕飯は卵を使ったものにしようかな」
「いや、そうじゃなくて」
確かチュニジアの方に……、と
覚えたてのパソコンでプリントアウトした紙をめくり始める。
沙織はとほほ、と頭をたれた。
あててっ、足つったっ
見せてください
ここですか?
そうっ、そこっ
あててててっ
少しほぐしたほうが良さそうですね
これはどうですか?
あ、それ、気持ちいかも
これは?
うーん、もうちょっと
こっち?
あ、そこそこ……
このほうが……イイ?
アッ……
おいっ!てめーらっ!
いーかげんにしてよっ!
見せてください
ここですか?
そうっ、そこっ
あててててっ
少しほぐしたほうが良さそうですね
これはどうですか?
あ、それ、気持ちいかも
これは?
うーん、もうちょっと
こっち?
あ、そこそこ……
このほうが……イイ?
アッ……
おいっ!てめーらっ!
いーかげんにしてよっ!
眠れないんですか
ん……
髪、触ってもいいですか
ん……
子守唄でもうたいましょうか
いい……
昔話でも?
いい……
羊でも数えますか
……いい
軽く運動するとよく眠れますよ
よかったら手伝いましょうか
高耶の堪忍袋の緒が派手な音を立てて切れた。
もういーからっ!
少し黙ってろよっ!
はいはい
ん……
髪、触ってもいいですか
ん……
子守唄でもうたいましょうか
いい……
昔話でも?
いい……
羊でも数えますか
……いい
軽く運動するとよく眠れますよ
よかったら手伝いましょうか
高耶の堪忍袋の緒が派手な音を立てて切れた。
もういーからっ!
少し黙ってろよっ!
はいはい