江戸の春には、種類があるらしい。
「俺様の"春"は季節の名じゃあない」
そう言って、長秀は色町へと消えていった。
その後姿を直江と一緒になって見送る色部に、隣から問いかける。
「色部殿はよいのですか」
「ああ」
色部は眉を下げている。
「駄目なのだ、絆されてしまって」
座敷で気の毒な身の上話などを聞かされると、無論法螺だとわかっていつつも、
ついつい放っておけなくなって通い詰めてしまうのだという。人情家の色部らしい。
けれど色部なら、きっと金を払わずとも泊めてもらえるところくらいあるのだろう、と直江は思った。
「お前こそ、いいのか」
「何がです」
「お座敷遊びをしろとは言わないがな、十手持ちは女を抱いてはいけないという決まりでもあったか」
「───……」
似たような台詞を、つい最近、聞いた気がする。
「母のようなことを言わないでください」
直江がそう言うと、色部はおかしそうに笑った。
「相変わらず御健在のようだな、母上は」
「ええ、まあ」
母はともかく、色部といい晴家といい、揃ってこんな話題を持ち出してくるなんて。
(あのひとなら、こんな野暮な話はしない)
再び脳裏に浮かんだひとの顔がどうしても見たくなって、直江は翌朝一番で出向くことを決めた。
「俺様の"春"は季節の名じゃあない」
そう言って、長秀は色町へと消えていった。
その後姿を直江と一緒になって見送る色部に、隣から問いかける。
「色部殿はよいのですか」
「ああ」
色部は眉を下げている。
「駄目なのだ、絆されてしまって」
座敷で気の毒な身の上話などを聞かされると、無論法螺だとわかっていつつも、
ついつい放っておけなくなって通い詰めてしまうのだという。人情家の色部らしい。
けれど色部なら、きっと金を払わずとも泊めてもらえるところくらいあるのだろう、と直江は思った。
「お前こそ、いいのか」
「何がです」
「お座敷遊びをしろとは言わないがな、十手持ちは女を抱いてはいけないという決まりでもあったか」
「───……」
似たような台詞を、つい最近、聞いた気がする。
「母のようなことを言わないでください」
直江がそう言うと、色部はおかしそうに笑った。
「相変わらず御健在のようだな、母上は」
「ええ、まあ」
母はともかく、色部といい晴家といい、揃ってこんな話題を持ち出してくるなんて。
(あのひとなら、こんな野暮な話はしない)
再び脳裏に浮かんだひとの顔がどうしても見たくなって、直江は翌朝一番で出向くことを決めた。
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