やってきたのは、近所にある兄行きつけの小料理屋だった。
若い頃には関西の方で女優をしていたという美人女将が、笑顔で迎えてくれる。
「奥、空いてるかな」
「今日あたり、いらっしゃると思って空けておきました」
「ええ?ほんとかな」
そう言いながら、兄はまんざらでもなさそうな笑みを浮かべている。
しかも何やら紙袋を手渡して、耳打ちまでし始めた。
直江はここの女将と兄がただならぬ関係にあると一時期かなり勘ぐったのだが、
結局はプラトニックな関係のまま、現在に至っているようだ。
奥の座敷に案内されて、直江は兄と向かい合って座った。
「後は信一くんにおまかせで」
「わかりました」
信一くんと言うのは女将の弟で、京都の有名店で修業を積んだという板前さんだ。
いったん下がった女将は、またすぐ現れて、
「どうぞ」
出てきたのはお通し三品と、菊酒だった。
「これは……風流ですね」
薄く色のついた硝子の猪口に、黄色い花びらがよく映えている。
「この菊はな、俺が持ってきたんだ」
兄が、子供のように直江に自慢してきた。
「もう、夏も終わりなのねえ」
女将は少しだけ淋しそうに言うと、
「では、ごゆっくり」
そう言ってまた、下がっていった。
若い頃には関西の方で女優をしていたという美人女将が、笑顔で迎えてくれる。
「奥、空いてるかな」
「今日あたり、いらっしゃると思って空けておきました」
「ええ?ほんとかな」
そう言いながら、兄はまんざらでもなさそうな笑みを浮かべている。
しかも何やら紙袋を手渡して、耳打ちまでし始めた。
直江はここの女将と兄がただならぬ関係にあると一時期かなり勘ぐったのだが、
結局はプラトニックな関係のまま、現在に至っているようだ。
奥の座敷に案内されて、直江は兄と向かい合って座った。
「後は信一くんにおまかせで」
「わかりました」
信一くんと言うのは女将の弟で、京都の有名店で修業を積んだという板前さんだ。
いったん下がった女将は、またすぐ現れて、
「どうぞ」
出てきたのはお通し三品と、菊酒だった。
「これは……風流ですね」
薄く色のついた硝子の猪口に、黄色い花びらがよく映えている。
「この菊はな、俺が持ってきたんだ」
兄が、子供のように直江に自慢してきた。
「もう、夏も終わりなのねえ」
女将は少しだけ淋しそうに言うと、
「では、ごゆっくり」
そう言ってまた、下がっていった。
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